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岡山地方裁判所 平成2年(わ)139号 判決 1990年8月24日

本籍

岡山県倉敷市中央二丁目三五四番地

住居

同市笹沖一三七八番地の七

会社役員

吉田修作

昭和二一年一〇月一日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官岩垂一登出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役二年及び罰金五〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、吉田商事株式会社代表取締役、倉敷青果荷受組合専務理事等を務めるかたわら、営利の目的で継続的に株式等の売買を行なつていたものであるが、株式等の売買取引による所得に対する課税要件である株式売買回数につき、証券会社に委託して株式等の売買を行なつた場合は、注文伝票総括表に記載されている内容にしたがつてなされた売買を一回として数えることから、これを利用して自己の所得税を免れようと企て、大口顧客である自己の立場を利用して取引証券会社に働きかけ、株式等の売買の委託があたかも毎月売・買各一回であつたかのような虚偽の総括表を後日まとめて作成発行させ、年間取引回数があたかも非課税枠内にあるかのように仮装したうえ、

第一  昭和六一年分の実際の総所得金額は二五六八万九八五三円であつたにもかかわらず、同六二年三月一三日、岡山県倉敷市幸町二番三七号所在の所轄倉敷税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が四一五一万六七三二円の損失で、これに対する所得税額が零円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて、右不正の行為により同六一年分の正規の所得税額九一〇万三〇〇〇円を免れ

第二  昭和六二年分の実際の総所得金額は三億四一〇四万三〇九円であつたにもかかわらず、同六三年三月一五日、前記倉敷税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が一二四四万一三六五円で、これに対する所得税額はすでに源泉徴収された税額を控除すると二八五三万六五二八円の還付を受けることとなる旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて、右不正の行為により同六二年分の正規の所得税額一億六五三一万八四〇〇円と右申告税額との差額一億九三八五万四九〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

( )内の算用数字は、検察官請求の証拠等関係カード記載の番号を表わす。

判示全部の事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書四通(78ないし81)

一  被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書二通(74、75)

一  野沢峯夫(39、40)、江頭正時(41、42)、吉田稔(43、44)、薬師寺美香(50)、富永征也(51ないし54)、佐々木健二(55、56)、網干正和(57ないし59)、岡本晴美(60)、大倉智美(61)、田村智美(62)、平野潤(63、65)、西村好包(66、67)、川久保和貴(68、69)、中川健治(70)、野口征二(71)、渡辺省三(72)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の調査書二九通(5ないし33)

一  大蔵事務官作成の調査事績報告書五通(34ないし38)

判示第一の事実について

一  吉田稔(45、46)、上野由紀子(47ないし49)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  押収してある所得税確定申告書(平成二年押第四八号の一)

判示第二の事実について

一  押収してある所得税確定申告書(平成二年押第四八号の二)

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、判示各罪について懲役刑と罰金刑とを併科し、かつ、情状により同条二項を適用することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役二年及び罰金五〇〇〇万円に処し、右罰金刑を完納することができないときは、同法一八条により、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、株式の取引によつて得た所得の脱税事案であるが、そのほ脱額が二年間で合計二億二九五万七九〇〇円と巨額であり、かつ、ほ脱率がいずれも一〇〇パーセントと極めて高率である。しかも、その犯行態様は、被告人が大口顧客である自己の優越的立場を利用して、取引先の証券会社の支店長らに圧力をかけて判示のとおり虚偽の注文伝票総括表を作成させて、これを利用してあたかも株式売買の回数が非課税の範囲内であるように装つて所得税を免れたもので、犯情まことに悪質である。

脱税事犯は国家に対する重大犯罪であり、特に悪質事犯に対しては量刑上厳しく対処せざるをえない。

しかしながら、被告人は、犯行を素直に認めて反省の態度を示していること、修正申告をしたうえ、本税の全部及び延滞税の一部は納付ずみであり、残る延滞税の一部と重加算税についてはすでに約束手形を交付ずみで、これについては支払期日に決済する予定であること、更に、本件では被告人の不当な要求を拒みきれずに違法を承知で前記注文伝票総括表を作成した証券会社にも責任の一端があること等被告人のために酌むべき情状も認められる。

よつて、主文のとおり量刑した。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 角田進)

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